間違い電話の向こう側

芸術・その他雑記

(変な)思い出のCD

何度か行ったことのあるギャラリーのサイトを見ていたら、思いも寄らぬ人の名前を目にして驚いた。それは、鈴木拓也というミュージシャンの名である。世間的にはほとんど知名度はないと思われるし、別に知り合いでも何でもない。それなのになぜそんなに驚いたのか。話は10年以上前に遡る。


自分がまだ地元にいた頃、おそらく10代の半ばぐらいだったと思うが、看護士をしていた母がいきなり1枚のCDをくれた。それが鈴木拓也の「鳥のリレー」というアルバムだった。母には音楽を聴く趣味はあまりないので、なぜこんなものをくれるのか不思議に思って理由を訊ねると、以下のような事情を話した。


その日、母が勤めていた病院の前に倒れていた男がいた。病院に運び込んで話を聞いたところ、金がなくて飯が食えず、空腹で倒れたのだという。病院で飯を与えたのか金を貸したのかは知らないが、その男が助けてくれたお礼にと自分の作ったCDをくれたらしい。母はいらんのでそれを俺にパスしたというわけである。


で、その渡されたCDというのが珍妙な品で、ジャケットも珍妙だし、ケースを開けると本人の顔面がどアップで盤面印刷された不気味なディスクが入っていて、正直「うわっ」と思った(笑)。こんなCDの中身ってどんなものなのかと思って聴いてみたところ、曲もまた珍妙な曲ばかりで、普通に市場で流通しているような、きっちりプロデュースされた音楽しか聴いたことのなかった当時の自分には、ある意味衝撃的だった。


基本的にはギター1本での弾き語りなのだが、歌詞がほぼ意味不明で、歌詞カードの解説文にまで意味不明と書かれていた。そんな意味不明の歌詞を実に一生懸命に歌っている。ギターもドラムを無視して先走りしたりで、あまり上手くはないのに、やけに熱い。というか変に頭にこびりついてくる鬱陶しさのようなものがあって、単に「変な歌だな」で忘れてしまうことができなかった。だからこそ、今こうしてこんな文章を書くことになっているのだ。


後になって調べたところ、この鈴木拓也という人のCDは、ヨコチンレーベルという地方のレコード会社からリリースされたもので、インディーズのミュージシャンなのだということが分かったのも、インディーズブームが起きてからだったような気がする。とにかくネットには情報が少なくてあまり詳しいことが分からなかったのだ。ちなみに、リリース元のヨコチンレーベルのロゴはかなり面白いので、参考までに会社のリンクを貼っておく。


このCDは今でもたまに聴いているのだが、あれから10年以上経っているし、まだ現役で活動を続けている人だとは思ってもいなかった。冒頭に書いたようにギャラリーのサイトで名前を見て驚いたのはそのためである。まさかこんなところでこんな名前を見るとは・・・。病院で渡したCDが巡り巡って、面識もなくファンでもなかった自分が、何年も経った今、こっそりとこんな記事を書いているというのは何か妙な感慨深さがある。

 

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